「心を元気にする生き方」
冒頭発言に続き、大野裕さん(慶応義塾大学教授、精神科医)、海原純子さん(白鴎大学教授、心療内科医)、音無美紀子さん(女優)による意見交換が行われました。コーディネーターは、田中秀一・読売新聞東京本社医療情報部長が務めました。
パネリスト (順不同) |
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慶応義塾大学教授、精神科医 大野裕さん |
白鴎大学教授、心療内科医 海原純子さん |
女優 音無美紀子さん |
コーディネーター |
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読売新聞東京本社医療情報部長 田中秀一 |
うつ病のつらさとは…
田中 うつ病の患者数が100万人を超え、この10年間で2・4倍になりました。ご自分やご家族、あるいは親しい友人、知人がうつ病、あるいは心の病になったことがある、あるいは現在なっているという方は、この会場でも半数近くおられるようです。
うつ病、うつ状態と言いますが、うつ病とうつ状態は違うものなのでしょうか。
サウザーの痛み
大野 うつの状態になっているのをうつ状態と言い、そのために医学的な支援、治療が必要な方をうつ病と言いますが、基本的には、心の元気がなくなっている状態、それをうつというふうに言うんですね。英語で言うと、デプレッション。例えば経済用語でデプレッションというと、不景気だとか、恐慌だとかという意味ですね。経済の活気がない状態。ですから、心の活気がない状態、エネルギーが低下している状態、これをうつ状態というふうに言います。
その中で、特にご本人がつらい、いろいろなことで支障が出ている、そういうものをうつ病といって、医学的な支援が必要だというふうに考えます。
田中 実際にそういう� ��態になった方は、どういうことがつらいのでしょうか。実際にご経験なさった音無さんに、お話しいただきたいのですが。
音無 うつ病になると、自分のやりたいことや、したいと思うことが、何なのか分からなくなります。頭の中で何か思考しようとしても、脳が全くなくて、空洞になっているのかしらと思うぐらい、考えることができないんですね。
自分がすごく変だと思ったのは、当時、小学校1年生だった娘のお弁当に、何を入れていいのか分からなくなったことです。それまでも、幼稚園時代からお弁当を持たせていたし、時間がある時はきちんとお料理もしていました。お料理は好きだったし、得意分野だったのですが、何を作ったらいいか分からなくなってしまったんです。
減量の鉱泉は私たちです。
買い物でスーパーマーケットに行き、かごを持って野菜売り場からぐるっと回っても、かごの中に何の食材も入れられないんです。食材に手を伸ばしても、いや、これで何を作るんだろうと考えてしまう。こんなのは娘は食べないとか、これどうやって作るんだろうとか。2周ぐらいしても、かごの中に何も入らないんですね。入れられないんです。
それで「何を買ったらいいのかしら」と焦るうちに、だんだんパニックになって、どうしようもなくなってきて、かごをぽんと置いて一目散に逃げるように家に帰ってくる。「何かあの人、変なんじゃないの」と、みんなに見られていたように思えちゃうんですね。「音無さん、ちょっと変じゃない」ってだ れかにささやかれているような気がしちゃう。自分に何ができたのか、何をしたいのか、もう分からないんですね。それがつらかった。
何もすることがないなら、本でも読めばいいと思っても、字は見えても文章が飛び込んでこないというか、だから何もできなかったんです。じっとしていることもできなかったんです。眠りたいのに眠れず、横になっても落ちつかないし、立っていても落ちつかない状態。本当につらかったですね。
田中 それは大変つらいですね。ですが最近、うつ病の中でも、仕事が終わる5時過ぎになると元気になるとか、仕事の日はぼうっとしているんだけれども、休みの日になると元気になるという、そういううつ病が増えていると言います。新型うつ病と呼ばれていますが、これっ てどういうものなのでしょうか。
麻酔·疼痛コンサルタント
うつ病とよく似た「気分変調症」…海原さん
海原 いろいろな見解がありますが、私は、気分変調症という病気と考えています。うつ病ととてもよく似ていますが、うつ病とは違います。新型うつ病というネーミングはマスコミがつけたもので、医学的なものではありません。新型うつ病というと、いかにも、うつ病が変わって新型になったような感じがしますが、そうではなくて、よく似ているけれど違う病気です。
比較的若い人に多くて、今、お話があったように、会社を離れると元気になる人もいる。うつ病だということで会社を休み、その間に海外旅行に行って、旅先から上司にVサインのメールを送る。「ああよかった。治った� �と職場に戻ったら、「またうつになりました」と言って休んでしまう。
こういったタイプが、気分変調症です。落ち込みが2年間ぐらいずるずると続く。重いうつではないけれど、気分がすぐれない日が2年ぐらい続いて、寝られないし、食事もあまりとれない。でも、うつ病ではない。
今までのうつ病との違いは、うつ病の人は自分が悪いという自責の念がすごく強くなって、私はだめなんだと思うのに対して、気分変調症の人は、「自分は悪くなく、周囲や社会が悪い」という傾向が結構強いと言われています。
ただ、私も何人かそういう人と関わってきたんですが、その人たちが怠け者なのかというと、実は私はそうではないという気がしています。
やりたいことが分からないということがベースにあって、本当はこう生きたいのだけれど、でも、親の手前、こういうふうに言った方がいいな、大会社に入ったほうがいいんだ、安定志向のほうがいいんだ、というところで自分の人生を決めてしまって、どこかぎくしゃくしてくる。
すると、一応、社会に適応はしているのだけれど、何かだんだんやり切れなくなって、症状が出てくるのではないかと私は個人的に考えています。
今後、さらに検証していく必要がありますが、私がカウンセリングで関わってきた気分変調症の若い人たちは、決して怠け者ではなく、いろいろやりたいことのエネルギーがすごく強い方たちでした。すごくエネルギーが強いがゆえに、この会社� �この決まった生き方、この安定した生き方にどうも入り込めず、そういう症状を起こすのではないか、そんな感触を私は持っています。(続く)
(2011年1月11日 読売新聞)
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